ヲトメ心は複雑微妙?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。

  


GWごろの晴天に弾みがついたよに、
梅雨に入る前にぐんぐんと気温があがるのは
結構例年のことではあったれど。
早くも真夏日とか、下手すると35度以上の猛暑日にまで迫ろうかという
極端な暑さに見舞われた、今年の皐月であり。
冗談抜きにこのまま夏に突入かなんて
げんなりしかかっていたらば、分厚い雲が西からやって来て
やっとのこと陽射しは遮られたのがこの数日のこと。
まだ気温は高めだが、
緑の密度がいや増した木陰を
さわさわすり抜けて吹いてくる風が涼しくて、
何とか一息つけており。

 “ヘイさんも早く衣替えしないかなと文句を垂れておったが。”

濃色の長袖というセーラー服は、
この時期だと見栄え以上に暑いのらしく。
自由奔放、制服なんてよほどの名門校でもないと着ないという
アメリカからやって来た預かりっ子のお嬢さんには、
季節制限というくくりのある服装コードが
ちょっぴり不評なようだったが。
仲のいいお友達と一緒にこぼすなら不満も楽しということか、
このところ さほど文句は言わなくなっており。
愛くるしい風貌にはなかなかお似合いの女学生姿で
遅刻する〜っとスカートひるがえして駆けだしてったり、
只今です〜っvvと胸元のリボンはためかせて飛びついてきたり…

 パラダイスじゃありませんか、ゴロさんたらvv

 “何をお言いやら。”

場外からの冷やかしへ、やれやれと大きな肩を下げたのは、
預かりものの大切なお嬢さん相手に、パラダイスもなかろとでも言いたいか。

 “何といってもまだまだ十代なのだしの。”

好いたらしいと思われているようではあるけれど、
いかんせん歳の差がありすぎて、
どこまでどう接して良いのやらという加減がいまいち判らない。
しかもしかも遠い海の向こうにおわす親御の代わり、
この地での保護者という立場でもある以上、
自分には割と大雑把なところの多い五郎兵衛も、
何かと気を遣わざるを得ないというもので。

 “こればっかりは育ってもらうのを待つしかないかの。”

他でもないご本人がじれったそうな顔をする場面も多々あるが、
色即是空と胸の内にて唱えつつ、
我慢の子でいるこっちだというのも察してほしい壮年殿だったりし。
どれそろそろ洗濯物が乾いたかなと、
中庭にしつらえた物干し場まで、
味のあるつやの出た板張りのお廊下をとすとすと歩んでおれば、

 「お?」

縁側廊下になってるあたり、居室側の障子戸が開いていて、
中でどんな大暴れを繰り広げているものか。
探し物の途中でずぼらして、かばんを逆さにでもしたものか、
ばっさーっと書類だかプリントだか、幾枚かが宙を舞って飛び出して来たではないか。
そのうちの一枚が、
ちょうど真ん前を通りかかった格好になった五郎兵衛の真ん前まで
ひらりんと舞って来たものだから。
昔取った杵柄じゃあないが、片手で軽々と摘まんでやろうと手を出したその途端。

 「あ、あ、ダメですよぉ、ゴロさんっ。////////」

居室の中から きゃあという黄色い悲鳴に似たトーンのお声。
それと同時に、声の主もひゃあっと飛び出してきて、
わたわたと慌てつつ問題の紙切れを掴まえてしまう。

 「どした、ヘイさん。もしやして内緒の付文か?」

そんな色っぽい内緒ごとだから、ヲトメチックに慌てたのかなと、
ふふと余裕の笑みを浮かべつつ、からかい半分に聞いたところが。

 「何言ってますか、
  私にゴロさん以外そんなあなた付文だなんて出す人が ああもうっ!」

何だか随分と焦りまくった挙句、
小さなお手々で掴まえたプリントらしき用箋。
胸元でくしゃくしゃと握りつぶしてしまうものだから。

 「ああ、すまぬな。そんなしていいのか、それ。」

大事なものなら取り返しがつかないかと案じたところ。
え?と意外そうに真顔になってから、
自分の柔らかそうな胸元、まだ制服姿のままだったスカーフ辺りを見下ろした平八、
ああ、と、そこで何を案じられているのかへ合点がいったらしく、だがだが。

 「いんですよ、こんなものは。」

そのままもっとクシャリと丸め、スカートの脇にあったポッケへ突っ込むと、
あははーと、打って変わって朗らかに笑って見せる。

 「それよかゴロさん、洗濯物取り込むんですか?私が やっときますよぉ。」
 「そ、そうか?」

問題ないないというつもりか、もみじのような手を開き、ぶんぶんと振って見せる彼女だが、
その手のひらにはうっすらと何やらインクの跡が見え、

 “……チェックシートのレの字に似ておるが。”

赤い色でのそんなマークといや、テスト用紙のダメダメ印と相場は決まっていて。
どうやら、平八が慌てて隠したのはあまり芳しくない成績だった科目の答案用紙らしい。
切れ者とまでは言わないが、
聡明なお嬢さんにしてはなかなかに呆気ない恰好でばれちゃったもので、

 “そんなことより”

五郎兵衛としては、
時々自分の可愛らしいレース付きのショーツだのブラだのを
居間やお廊下へちょこりと落っことしてることがあるくせに。
そしてそれへ目を真ん丸くしてどう対処したものかと立ち尽くしている五郎兵衛へ、
あ、ごめんなさ〜い♪とさして慌てもしないで拾って片づける彼女だというに、

 “赤点らしい答案の方がああも恥ずかしいとはの。”

どうもやはり、そういうところは昔の“彼”のままなのかしらねぇと。
いやいやそれだったら、
オーガンジーやチュールやレースのパンティなんて履かないでしょうに、
やや混乱している物言い、胸の底にて転がしたゴロさんだったりするのであった。




   〜Fine〜  16.05.28


 *一つ屋根の下でお暮らしの二人、
  やっぱりちいとも進展はないらしいということで、
  久々に書かせていただいた次第ですvv
  あとの二人というか、兵庫さんとこと違って、
  こちらさんもうすうすヘイさんの気持ちには気づいてるらしいんですがね。
  勘兵衛様同様、自分なんかより、
  例えば同じ年代の若いのとか、相応しいのはたんといようにと、
  そんな風に思ってる罰当たりです。

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る